深夜の訪問

4/6
728人が本棚に入れています
本棚に追加
/242ページ
「わかっている。だが、会いたかったんだ。リュドラー……、おまえに」  両頬を繊細な指で包まれて、リュドラーの胸が熱くなった。それ以上はなにも言えず、リュドラーはただトゥヒムを見つめる。 「手紙には、部屋の場所も書いてあった。甘いと言われるだろうが、私はティティを信じることにした。……なにより、あの者に私をだます理由はない」 「ございます、トゥヒム様。あれは性奴隷です。奴隷制度を容認している王族や貴族たちを、恨みこそすれ慕うはずがございません」 「彼がいまだに性奴隷であるのは、暴動があっても解放をされなかった……、あるいは、そのほかに生きる道がないからではないのか。ならば私を恨む必要もないだろう。それに、ティティは私たちの元の身分を知らないのだろう?」 「トゥヒム様と私を密会させ、それをサヒサに知らせて追い出そうとしているのかもしれません」 「それで、なんの益がある? 手引きをしたものが自分だと、すぐにわかる可能性があるというのに」  リュドラーは口をつぐんだ。トゥヒムは顔をほころばせ、室内を見回す。 「ずいぶんと手狭な部屋を与えられたのだな。不自由はないか?」 「いえ。……使用人の部屋というものは、えてしてこの程度の広さです。ですので、俺の現在の境遇からすれば上等の扱いかと」 「ああ、そうか。……そうだったな。つい…………」  言いかけて、トゥヒムは口をつぐんだ。申し訳なさが、壁を見る横顔に浮かんでいる。リュドラーは眉を下げてほほえみ、立ち上がった。 「どうぞお座りください。とは言っても、イスは硬くていけません。クッションもないので、ベッドに」
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!