第1章

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どうして急に思い出したのか不思議に思った。一人暮らしのこの部屋に過去の物は何もない。写真も物も何もない。あるのは俺の中にある記憶だけ。 高校を卒業してから一度だけ彼女と会った事があった。あれは…確か23才の頃…。 東京に住んでいた彼女が仕事で大阪勤務になった俺の所に遊びに来ることになった。金曜の仕事終わりに新幹線に乗って夜、俺の所に来た。一泊して土曜日に京都、大阪と観光する予定で。 金曜の夜、最寄りの駅に着いたと連絡が入ると俺は急いで迎えに行った。 目印の看板の隣に立つ髪の長い綺麗な女性を発見。ドキッと心臓が跳ねた。俺を見つけるとニコッと笑って手を振った。 マジか…久しぶりに見た彼女は高校生の頃のイメージでいた俺を驚かせた。可愛い彼女は綺麗な女性になっていた。 久しぶりと話せば中身は変わっていない。電話で話してる明るい彼女だ。時折見せる表情は、やっぱり可愛いまま変わっていなかった。 俺達は友達だった。男女の友情が成立するかと聞かれれば、俺達は成立していた。 彼女が泊まっても、勿論、何もない。この話をすると信じられないと周りの友人達は言った。 布団を並べて寝たこと。暗闇で高校時代の話をして、腹が痛くなる程笑って眠りについたことを思い出して懐かしく思った。 だけど、直接、彼女に会ったのはこれが最後だった。
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