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【1】
家からバイト先のコンビニまでは徒歩で10分とかからない。
だからこの雨上がりの少し湿った空気を味わう間もなくついてしまう。
着くともう行動パターンは決まっている。タイムカードを押して、制服に着替えてレジに立つ。今日一番初めのお客様は…。
「北村元気?」
また、名前不明の小学生の男の子たち。レジに出すのはこれから公園にでも行って食べるのか安いお菓子ばかり。
幸か不幸か向こうは私の名前をネームプレートで覚えたようで馴れ馴れしく話しかけてくる。これがもっと難しい名前なら話しかけれたりしなかったはず。
「元気ないの?北村?」
「お気遣いいただきありがとうございます。元気ですよ」
「えー?なんかいつもより元気ないよ!」
「そうだ!あれください、スマイル1つ!」
この子供たちにバカにされてる気がするのは私だけかな、それとも気のせい?
「ここは某ファストフード店ではないのでスマイルはありません」
「ちぇ、つまんない!」
私も楽しくはない。だからさっさと値段を言って出してきたお金を受け取る。
この子たちにしては珍しくおつりが出ない。
「ありがとうございました」
「あ」
「笑ったぞ!北村が笑った」
「じゃあね、バイト頑張れ!」
今のは営業スマイルという大人のずるい技なのよ、なんてこと言えない。
あと数年したらあの子たちも得る技だ。そのあとはごく普通のお客様で話しかけられることもなく、淡々とカウンター越しのやりとりをしているうちに時間も経っていた。
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