灼熱、帰路。(一)

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 俺はそれを見た途端、急に胃が鉛のように重くなった。身体の内側で血管が一斉に混線するようだった。自分のしたことの軽率さに今更気付く。これではもう、無関心を装って平穏に過ごすことは叶わない。善行を認められてしまった以上、俺は彼女の前では善人でいることを義務付けられてしまった。たとえその本質が、偽善だったとしても。  相手の顔なんて見れない。もし何かしらの表情を向けられでもしたら、ますます身動きがとれなくなる。俺と彼女との関係性が固定化されてしまう。守る善人と、守られる善人という最も不幸な構図に。  逃げるのは俺のほうだった。メモ帳もシャーペンも受け取らず、ただまっしぐらに自転車を出庫し、ペダルを踏んだ。帰路の間ずっと、魔が差したんだ、と何度も口に出した。  かくして、俺こと浦島霜跡(うらじま そうせき)の七月は、後生まで恥ずべき逃走から始まった。
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