七限、特活。(一)

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 教壇に立った文化委員は、諦めたように黒板へ喫茶店の三文字を書いた。  期末考査が終わったのは昨日のことで、ようやく解放されたと思った矢先に降って沸いたような事案。夏休みが始まるまでに、文化祭の出し物を決定しなければならない。それから夏の間の段取り、クラス内での担当分けなど決めることは山積みとは文化委員の言だった。誰もがその切羽詰まったスケジュールに現実味を感じなかっただろう。  出来事を他人事を断ずることは容易くとも、当事者意識をもつのには時間がかかる。無関心であればその意識すら必要ない。楽なほうを選ぶのは怠惰を知るものならば当然の帰結だ。俺も大して考えることなく、無関心を選ぶ。 「喫茶店は去年もやりました。今年もそのノウハウを生かそうと思います」  去年と同じ出し物を選ぶことに、過半数が反対しなかったという事実。文化委員が嫌味交じりで言うのも仕方ない。高校二年生の大きなイベントにここまで無関心でいられるクラスメイトが信じられないのだろう。特に彼女は自ら志願してクラスの文化委員になったのだから、ショックさえ受けているようにも見える。  こんなことは、別段珍しいことでもない。この高校はおおらかな校風、という触れ込みになっている。だが実質は周囲に無関心なやつらばかりだ。自分の周りに何が起きているのか、知ろうともしない。無関心でもわかるくらい、大きな変革が起こるのをただ待つだけ。自分で変えようとは微塵も思わない。  無関心は悪だ。俺もそうだと自覚する。臆面もなく、体裁もなく。変えられないと心のどこかで思っているから、何もしない。喫茶店が出し物に決まるときも、俺は手を上げることすらしなかった。俺だけじゃない。過半数が挙手しなかった。過半数が、無関心だ。担任教師だってこの状況に何も口を出さない。見て見ぬふりを決め込んでいる。そういうものだと思っている。変わりようがないのだと諦めている。  ここにいる限りはどこへも行けない、窮屈な場所。  なのにどうしようもなく、変えられない。
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