メイドと王子

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差し込む光が煩わしいと言わんばかりに腕で顔を覆う。相変わらず朝はしぶとい、と痺れを切らして私は彼のそばまで行き叫んだ。 「キースさ、むぐっ……!」 「……うるさい。大きい声出すな」 突然大きな手がにゅっと伸びてきて、私の口を両端から掴んだ。お陰でひょっとこみたいな情けない顔になっているに違いない。 「キースひゃまが、起きてくだひゃらないかや……」 「お前のうるさい足音で起きてた」 「そんなバタバタ歩いてるつもりは」 ぼんやり私のひょっとこ顔を眺めて覚醒した部屋の主は、手を離し大きなあくびをして上体を起こすと、切れ長の目をこちらに寄越した。 「す、すみませんでしたー」 燃える赤いルビーを宿した瞳がきっとこちらを睨む。理不尽だと思いながらも、あの瞳にはどうしても敵わない。いそいそと主の部屋を出て準備のため食堂へ向かう。 ここはランドール国の城。ここで私は女中、いわゆるメイドとして働いている。花屋をしていた母の仕事をずっと手伝ってきたお陰で、メイド採用試験を通ることができ、今ではこの城に飾られるお花全てを任せられるようになった。大好きなお花に囲まれて荘厳華麗な城で働くことができている。実に充実した生活!──ある一点を除いては。 「食後のコーヒーをお持ちいたしました」 「遅ぇよ」 「ぐっ……失礼いたしました」     
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