夜道

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 出張で錦糸町のホテルに泊まった時です。コンビニでビールとつまみでも買おうと、夜道を歩いていました。古いビルとビルの間で、何かが動く気配を感じました。  酔っ払いが倒れているのだろうかと思い、ひょいっとのぞき込みました。  やはり酔っ払いでした。でも、何か変な感じがしたのです。  さらに、奧へと入り込んで確認したところ、信じられない光景が目に入りました。  大きな蛇が酔っ払いをのみ込んでいたのです。  残っているのは顔だけです。  その気絶している人間は、僕が愕然としている間に、顔さえのまれてしまいました。  大きな蛇が牛やワニなどを丸呑みする事はテレビで知っていましたし、実際、インドネシアだかの島で、丸呑みされた人間のニュースも見ていました。  でも、ここは錦糸町です。  僕は完全に固まってしまいました。すぐに助ければ、まだ命は助かるかもしれないと思いつつ、どうしていいか分からず、汗だけが噴き出てきました。  蛇は、人間を丸呑みしたことで、動けなくなったのでしょう。消化をしようとする恐ろしい音が、耳に入ってきます。  僕はやっと我に返って、警察に電話しようとスマホを取り出しました。 「おっ、ヘビだ」  僕の後ろに、いつの間にか人が立っていました。30代後半のネルシャツを着た、普通の男です。  こんな大きな蛇を見ての、そのリアクションはないだろう、そう訝しく思いつつも、さっき人をのみ込んだことを説明しかけたところで、男はスタスタと蛇の元に行きました。  しゃがみ込んで、蛇の頭を持ち上げると、男は、おもむろにそれを自分の口に入れました。  蛇は、みるみると男の口にのみ込まれていきました。男は恵方巻きを食べるように、黙って蛇を体内に入れていったのです。  男は蛇を丸呑みすると、自分の膨れた腹をひと撫でして、夜の街に消えていきました。  僕はさっきよりさらに固まったまま、いつまでもその場に立ち尽くしていました。    スマホはポケットにしまいました。誰が信じてくれるというのでしょう。『人を丸呑みした蛇を人が丸呑みしたんです』と言ったところで、夢を見ていたと笑われるだけです。    僕も夢だと思いこむため、500ミリリットルのビールを4本飲んでその日は眠りました。
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