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ココロノイロ
それからすぐにガードマンが屋上に駆けつけ、柚留木くんは無事に救助された。
私は現実と非現実とが共存しているような不思議な感覚の中、屋上の床へとへたりこんだ。
その後、理事長室へ呼ばれ厳重注意を受けた。絢香さんは、ただただ柚留木くんを抱き締めていた。
私はもう心配はしていなかった。
あれだけ大きな愛を見せられたのだから。
「これからも専属カウンセラーでいてよ、センパイ」
「専属は難しいかな」
「それは残念。でも……天国のお母さんは喜んでるんじゃないかな」
「なんで?」
「僕を救ってくれたのはセンパイだよ。センパイと会ってなかったら母さんの本当の気持ちを見ようとも思わなかった」
「そんなことは無いけど……人の心に寄り添える人間になりたいな」
あれだけ人がごった返していた昇降口にはもう人の姿はなかった。
「なれるよ。センパイなら」
夕暮れに染まるオレンジの景色。
2人の影が伸びる。
「明日の後夜祭も一緒にいてくれますか? お嬢さま」
燕尾服はもう脱いでいたけれど、そんな台詞と白いウサギを抱えながら胸に手を当てお辞儀をする柚留木くんに笑ってしまう。
「明日は柚留木くんのピアノが聴きたいな」
「喜んで」
きっと明日もあの空は青く染まる。
ココロノイロと共に――
【了】
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