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あなたを失くしたら私は悲しい
「何してるの?」と私が問いかけると、彼はゆっくりと振り向いた。
ぶつかる視線。
彼は困ったように笑って、それから言った。
「死のうと、思って」
その瞳に私の姿はなく、あるのは空の青だった。
秋風にはためく白いシャツはまるで羽根のようで。
今すぐにでもここから飛んでいってしまいそうに思えた。
「良かったら……話してくれないかな」
私は彼に向かって乾いた声を出した。
「なんで?」
彼は小首を傾げ、微笑みを携えている。
「ここで会ったのもなんかの縁だと思うの」
そう言いながら、少しづつ彼との距離を詰めていく。
ここは学校の屋上で、彼は手摺りに手をかけた状態。
少しでも刺激してしまえば、取り返しのつかないことになる。
「私はもうあなたに関わってしまった。無関係じゃない」
「強引だね」
「かもしれない。でも目の前に救えるかもしれない生命があるのにそれをしない人間に私はなりたくない」
「それってエゴっていうんじゃない?」
「確かにそうかもしれない。これは信じてもらえるか分からないけど……私があなたを見ていた時間は7秒以上」
そう言って私はゆっくりと彼へ手を伸ばした。
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