第十四章

5/13
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
「まあまあ。お菓子といってもスナック類ばかりでしたし、少々期限が過ぎていても問題ないですよ」 「だから、そういう問題じゃないってば」  美鈴はそう言うとふて腐れたように俯いてしまった。 「とにかく――」  鈴音はスマホから顔を上げた。 「聞き込みに行くのならお一人でどうぞ。僕たちはここで待ってますから」 「……待ってるついでに家の中に入らないでくださいね?」  鈴音はふいと顔を逸らした。 「お願いしますよ?」 「大丈夫ですよ」  しかし鈴音はこちらを見ようとしない。さらに念を押そうとしたとき、短くクラクションが響いた。  振り返ると、車道に一台の軽トラックが停まっていた。運転席の窓から初老の男が顔を出す。 「あんたら、そこで何をしてるんだ」  槙は「すみません」と笑みを浮かべて会釈をしながら車へ近づいていく。 「こちらに住んでらっしゃったはずの吉瀬雄二さんを訪ねてきたんですが」 「……何の用があるんだ」  日に焼けた男の顔が少し歪んだ。 「吉瀬さん、司法書士をしてらっしゃいましたよね。昔、私の父がお世話になったらしいのですが、そのときの書類を紛失してしまって。もしかしたら、まだ吉瀬さんがお持ちではないかと思って訪ねてきたのですが」  すると男は胡散臭そうに槙の顔を見つめてくる。槙は笑みを浮かべたまま「困ってるんですよ」と少し肩をすくめてみせた。 「あの子らは……」  槙は振り返る。美鈴と沙歩はぼんやりと風景を眺めるようにして立っている。そのすぐ近くで鈴音がスマホを触っていた。しかし、その視線は密かにこちらへ向いている。様子を窺っているのだろう。 「親戚です。一緒に行くと言ってきかなくて」  そう答えると、男は眉を寄せて視線を槙へと戻した。  その表情に警戒の色が濃くなったような気がする。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!