文化的な価値がありますか

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「文化ってなんだよ!」  誰かの魂の叫びが木霊する。彼はどうにもこうにもやってられないと目の前のことを投げ出してさっさと帰りたかった。一週間後に迫る文化祭、その準備に追われる彼は一人の学生だ。お化け屋敷というクラスの企画のためなんやかんやと理由をつけておどろおどろしい内装を作る事になってしまったのだった。目の前にある木の板を叩き割ったら気分がいいだろうな、そう思いながらも行動には踏み切れない。いい意味でも悪い意味でも思い切りの悪いやつ。 「市ヶ谷くん、そんな怒らないでも」  教室には当然他にも人がいる。もっともほとんど帰って残っているのは二人だけ。木の板を切ったり割ったりする男、絵を描き色を塗る女だけ。薄情かな、他の人達は皆帰ってしまったよ。それでもしばらくは真面目にやっていたのは献身的と言うか何というか、しかしまあそれも限界。この男、とうとう学校中に響く声で叫びだしたというわけだ。 「じゃあ聞くがな利根木。このお化け屋敷ってもんのどこに文化的何かがあんだよ。ねえよんなもん!」  それでもまだまだ収まらない。目に付くものに文句を言いたい。八つ当たりのように絵を描く彼女に当たるが、彼女、真直ぐに目を見て答えるじゃないか。 「でも、お化けとか幽霊って昔から怪談として伝わってきたものだし、土地ごとに違いがあるんだよ? だからそういうものを扱えばその土地の文化をしっかり紹介できるんじゃないかな」  時間が止まったかのように固まる男。夕日の赤が眩しい。で、烏が鳴いたのを合図に再び動き出す。 「あ、ほ、かお前はー! 誰がうまいことを説明つけろっつったんだよ! 俺がねえっつってんだからお前も無いって言っときゃいいんだよ!」 「でも、文化的なものだから」 「じゃあ隣のクラスがやる占いは!」 「それこそ昔からあるよ。亀卜って占いがあったのは授業でやったでしょ?」 「知らねえよ! 歴史か? 俺が取ってんのは地理だぞ」 「知ってる」 「知ってんのかよ!」  話が逸れたか逸らされたか、どちらにせよ話を戻すのも馬鹿らしいと思
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