第1話 いばら姫

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 ただ俺は、久々に図書館でも行ってみようか、と家を出ただけだった。  初夏の空気は思った以上に蒸し暑く、部屋で扇風機に当たりながらアイスでも食ってりゃ良かったなーとか思いながら自転車を止めて、いざ図書館に入ろうと思ったら、何だか鬼気迫る感じで路地に入っていく二人を見かけて。  何事かと思い、追ってきたんだが――本当に何事なんだよ。  あたりも、いつの間にか森の中みたいな雰囲気になってるし。でもここ住宅街だったはずだし。  そうやって悩んでいる間にも、二人はにらみ合いを続けている。木の陰にいる俺のことには全く気づいてないようだ。何かあれば止めなきゃと思ってたけど、もうそんなことが出来る状況では全然なく、俺はひたすら息を呑んで成り行きを見守っていた。  じり、と。  大和撫子が詰めた一歩が均衡を崩す。ギャルがその目力をいかんなく発揮すると同時に、金髪が大きく波打った。  ――危ない!  声も出せずにいる俺の前で、まるで蛇のごとく襲いかかろうとしていたそれは、大和撫子の操る茨に弾き返される。その間を縫うように繰り出された髪を、今度は茨が絡め取ろうとするが、素早く方向転換をした髪は大和撫子の足下を狙った。  それを地を蹴ることでかわし、ふわり、と重力に逆らうかのように空中を舞う大和撫子。  その現実味のない光景を見ながらも、不思議と俺の中からは、これは夢だとか、幻覚を見ているんだという考えは浮かんでこなかった。それどころか、以前どこかで見たような気さえする。  それこそ夢の中で、なのかもしれないが。
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