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「あ、文化祭かぁ」
スーパーからの帰り道、母校の前を通りかかった龍一は声を上げた。日曜なのになんか賑やかだと思ったら。
「ホントだ」
隣を歩いていた沙耶も呟いた。学年は違うし、時期も全く被らないが二人共同じ高校の出身だ。
「行きたいけど、これじゃあなぁ」
片手に持ったスーパーの袋に苦笑する。牛乳や卵、肉を持って文化祭に突入する気にはならない。
「一回家に荷物置いてから、また来る?」
「うーん、時間的に終わりそうだよね」
「そっか……、じゃあまた来年」
「そうだね」
名残惜しいが学校の前をあとにする。来年の約束を当たり前に出来ることは、嬉しい。
「そういえば、雅が三年の時に行ったんだよね、文化祭」
「義姉さんの?」
「そう。その時、沙耶、一年でしょ? どっかで会ってたり……あー、でも、ちゃんと出てた?」
あんまり学校が好きじゃなかった沙耶は、
「多分、さぼってた。行ったとしても」
「だよねー」
文化祭に張り切ってる沙耶なんて想像出来ない。
「まあ、俺も小学生の時のことなんて覚えてないけど」
唯一覚えているとしたら、
「なんか雅にめちゃめちゃ怒られたことかなぁ」
「何したの?」
「いやぁ、そこは覚えてないんだけど。すっげー怖かったのは覚えてる」
なんでだったっけなぁ?
考えていると、視界の端で何かがきらりと光った。確認すると光の元は、沙耶の左手の結婚指輪だった。そっと自分の左手に目をやる。同じ指輪に頬が緩む。付けるようになってから三ヶ月。まだ慣れていない。
「沙耶」
荷物を持ち直し、片手をあけると彼女の手を握る。沙耶はちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに握り返してきた。
文化祭の喧騒が遠ざかっていく。
「次の日曜はどっか行こう」
そんな話をしながら、二人の家に向かった。
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