地下鉄のホーム

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地下鉄のホーム

 ある小さな地下鉄の駅のホームで、僕はいつも、何かを待っている。  高校で勉強をして、その電車通学の帰りに、乗り換え駅のベンチに腰をおろし、通学カバンを隣に置いて、ぼんやりとスマホを眺めている。ホームに電車が到着するごとに、顔を上げ、幾らかの人が電車のドアから吐き出され、早足に階段を昇ったり、僕の目の前を通り過ぎたりするのを見ている。  無機質な駅のホームで、僕はただぼんやり座りながら、何かを待っている。僕はいったい、何を待っているのだろう? 毎日毎日こんな所で、冷たいベンチに腰かけて、用もなくスマホをいじったり、変わらない地下鉄の光景を眺めたりして……。  ああ、だけどこの間、少し変わった出来事があった。あれは、ほんの二週間ぐらい前、まだ十月もはじめの頃のことだったと思う。  いつものように僕は、学校を出て電車に乗り、この乗り換え駅のベンチで、一人静かに過ごしていた。まだ帰宅ラッシュの時間帯にはなっていなくて、人の行き交いも少なく、ホームは穏やかだった。僕はスマホで、近々アイドルがグループを卒業するとか、芸能人がまた不倫をしたとか、たしかそんな感じのネットニュースか何かを読んでいたと思う。  そんな時、時刻表通りに電車がホームへと入ってきて、ブレーキの音を何重にも響かせながら、いつもの調子で止まった。アナウンスと共にドアが開いて、発車音が鳴り、ドアが閉まってまた何事も無かったように去っていった。僕はネットニュースを読んでいたから直接見てはいないんだけれど、たぶんそんな感じだったと思う。  それで、芸能人の記事か何かを読み終えて、ふと顔を上げると、視界の隅で何かが動いた気がしたので、そっちの方を見た。  ーーすると、階段の少し手前で、人がうずくまっていた。  髪の毛は後ろで一本に結ばれていて、パリッとしたベージュのトレンチコートを着ている。なんとなく若い女の人かなと思ったけれど、こちらに背を向けてうずくまっているので、はっきりとは分からない。何事かと思ってひやっとしたけれど、何かを落としたのかもしれないし、どんな状況か分からなかったので、少し様子を見ることにした。
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