第四話 夢終日、夢の終わりに…

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翌朝5時。 園子は身を清め、白装束に身を包み、 高梨夫妻の正座をしていた。 後ろには真壁が控えている。 「…覚悟を、決めたようだな」 やがて高梨氏は、厳かに口を開いた。 愛娘の漆黒の大きな瞳は限りなく澄み渡り、一点の曇りも見えない。 腹を括った事が見て取れた。 「はい!もう思い残す事はございません。 園子は、本日予定通り、信一郎様の元に嫁ぎます!」 一言一句ハッキリと、宣言するように言い切った。 何の躊躇いも見られない。 満足そうに高梨夫妻は微笑みあうと 「いい決意だ!これで我が一族、そしてお前の未来も安泰だ!」 高梨氏のその一声を合図に、突然高梨屋敷は消え、 森の中に佇む白い狐達がいた。 高梨氏がいた場所に、大きな白い狐が。 夫人がいた場所には、やや小さめの白い狐。 真壁が控えていた場所にはスリムな白い狐が。 そして園子がいた場所には、白銀のしなやかで小柄な狐が佇む。 そして彼らの周りを、 白に近いベージュ色の無数の狐達がズラリと取り囲んでいた。 そう、彼らは「白狐の一族」。 長女が生まれてから15歳の誕生日を迎えるまで、 一族は人間界で過ごす。 そこで長女は徹底した教養、嗜み、マナーを身につけるのだ。 15歳の誕生日を迎えた翌日、 生まれる前から決められていた「金狐の一族」の長男の元へと嫁ぐのだ。 人間界では「狐の嫁入り」と呼ばれている。 白狐一族は、嫁入りの準備を始めた。 穏やかに晴れ渡る日だった。
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