ニワトリ 三、

2/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
吉田は焦っていた。通常なら人気のない夜の道路に人がごった返している。これでは出られない。今回盗みに入った港区の家の金庫はセキルティシステム付きで警備会社に連絡がいくようになっていたのだ。おそらく俺のような泥棒を警戒してのことだろう。しかし、こんなセキルティシステムなど吉田と手にかかれば1分もしないで無効になる。ないも同じと言えるだろう。だが、今は普段とわけが違う。ほんの1分でも命取りになる。 「全くどうなっていやがるんだ。これじゃあここで夜を明かす羽目になる」 そうつぶやいた時だった。 「あっちに行ったぞー!」 「後を追えー!」 どうやら同業者が起こした騒ぎらしい。 「やっとここから出られる。いつまでもぐづぐづしてられねぇ、この隙におさらばだ」 そう言うと吉田は素早い動作で家を後にした。 「なるほど、エメリシアが目当てか。だがあそこはかなり警備が厳重なはずだぞ。こんなところ神出鬼没(しんしゅつきぼつ)の大怪盗、エレノオーレでもなきゃ入れねえ。さてはしくじったな。俺みたいにコツコツ貯めれば良いものを……ばかだな」 まさに今、その神出鬼没の大怪盗、エレノオーレがエメリシアを手にしているのだがそんな事知る由もない。吉田の目の前には今、特別企画期間中のためニュースで引っ張りだこの国立古代美術館がそびえ立っていた。特別企画では一七七六年にエジプトのアーレン王の墓から見つかったエメリシアという真っ赤な宝石が展示されているのだ。 「だいたいあんな大物を盗んでどこに売りさばく気だ。金にならない物なんか盗んだって意味がねぇ」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!