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くるっと身が翻る。痛っ、ガンと顔面が堅い筋肉にぶつかった。乱暴するな、文句を言ってやりたいが言えない。大気が歪んでるんじゃないか、いま。震えが止まらないほどの怒気にどっと、噴き出す冷や汗が
「その眼をコイツに向けるな」
凍えつきそうな酷薄な声に速乾した。泥の沼に足からズブズブと沈み
「忘れるな」
窒息しそうな恐怖に声がでない。産毛だけでなく、毛髪までもが逆立ちそうな冷気は
「二度目はない」
翔の放つ殺気。怖い、激怒した翔が理性を失い、俺の前から消えてしまうことが。震える腕を彼の背に回してギュッ。強く、抱き締めた
「お話中失礼します。課長、店主がこちらの方々と警察への通報を視野にいれ話をされたいそうです。宜しいでしょうか」
店主は女性が乱暴に扱ったトイレ出入り口の蝶番が外れ、小窓がひび割れていたため、いつ口を挟もうかと待ち構えていたらしい。トントン、俺の背を宥めるように叩いた翔の
「ああ、構わない」
落ち着いた声にホッとする、もう大丈夫。ホッと息を吐いてハッとした。そうだ、三田は? 鈴の音が響く「土手を登るのに時間かかるのは骨粗鬆症のせいですか」失礼極まりない古田の冷めた声を聞きながら翔の肩から目を覗かせて、見た
「私は被害者よ! ストーカーの恐怖に怯えてるの! この店を選んだせいで心も体も傷付けられたわ!」
静かに涙し、濡れた頬を光らせる三田へ駆け寄る門倉さんを。走れるじゃない、吐き捨てる古田を宥める家入さんが、ガセではなかったわよ。囁いてクスクス笑う。突然、抱き締められた三田が目を見開き、顔を歪め、焦れったいほどゆっくり、おずおずと門倉さんの背に腕を回した
完
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