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俺は小走りで玄関へ行き、恐々扉を開けた。すると、そこに人の姿は無く、代わりに赤い壁があった。
デコボコとした真っ赤な壁だ。
「ん? なんだこりゃ……?」
目がおかしくなったのかと思ってまばたきをしたところ、
「夜分に失礼します」
という声が頭上から聞こえてきた。
「え? ――うわあっ!」
それでふと見上げると、そこには大きくて真っ赤な顔があった。
その頭には二本の角が生えており、口には鋭い牙まである。
「おっ、鬼ぃっ!?」
そう、壁だと思われたものは筋骨隆々な大男、赤鬼の腹だったのだ。
「お兄ちゃん、ゴメンんやけど、ちょっくら邪魔させてもらうわなぁ」
赤鬼は巨体を器用にくねらせて、狭い玄関をくぐり抜けてきた。そして、茫然と立ち尽くしている俺を申し訳なさそうにそっと横に押しやると、奥の間へと進み、畳の上にどっかとあぐらをかいた。
「ハァ~、寒かったぁ……」
赤鬼は大きな溜め息をついたかと思えば、電気ストーブを近くに寄せてくつろぎ始めた。
「……」
現実離れをしたその光景に言葉を失った俺は、なにをどうすればいいのかわからなかったが、とりあえず寒いので玄関扉を閉めきり、鍵をかけた。
「えーっと、なんだこれ? あれ? 俺もう寝てる? 今は夢の中か……?」
ベタだけど頬をつねってみた、かなり強めに。
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