帰れないのは誰のせい

深夜のテナントビルにて

福岡県の某所で働いていた頃に遭遇した話です。
確か七月の…ちょうど今時期だったでしょうか。
随分と蒸し暑い夏の夜でした。
その日、私はとあるテナントビル内の事務所でプロジェクトの締め切りに追われており、深夜まで残業していました。
繁華街の若干外れに位置するこのビルは、いわゆる事故物件と呼ばれるような曰く付きの建物だったのですが、私自身はその手の…幽霊やら都市伝説やらといったオカルト話は信じていない方でしたので、この日も特に何を感じることもなく遅れていた仕事に没頭していました。
そうこうしているうちに時刻は深夜の1時を過ぎてしまい、タクシーを拾って帰るのも面倒になった私は事務所で仮眠を取ることにしました。

疲れもあってか五分も経たないうちにウトウトと眠ってしまっていたのですが、急に大きな『ガシャン』というガラスが割れたような音が聞こえ、驚いて目を覚ましました。
一瞬、石でも投げ込まれたのかと周囲を見渡しますが、特に何も変化はありません。
事務所の窓側にあるガラスも損傷はありませんでした。
音の出所としては上の方から聞こえた印象を受けましたので、もしかしたら上の階かな…なんてこの時は考えていました。