回顧 高ニ高三 幸せ過ぎて

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秋が過ぎて冬が来て、また春が来た。 「ただいまー」 上機嫌で帰って来た海斗に、作業の手を止めて「おかえり」と告げる。 最初は擽ったかったこのやり取りにも慣れ、すっかり日常となっていた。 食材を冷蔵庫に仕舞った海斗が、へへっと笑って僕の前に本屋の包みを掲げた。 「本屋行ってたの?」 「やっぱお前忘れてる」 少し呆れて、包みから一冊の本を取り出した。 「今日新刊の発売日だったろ?『店長のお勧め!』なんてポップがあって、すっげー嬉しくなっちまった」 そう。お陰で初の連載は好評で、別冊での連載に加え幾つかの読み切りを収録した物も、単行本として刊行された。 仕事が増えて忙しくはなったけど、原稿料も上がり、順調に漫画家としてステップアップしていっている。 「わざわざ買わなくても、編集部から送られて来たのがあるのに…」 「何云ってんだ。ファンとしては本屋で買わなきゃだろ!」 何故か力説して、和室に移動すると壁に背中を預けて早速単行本を読み始めた。 いつも出来上がった原稿を真っ先に読む癖に、単行本が発売される度にこうやって買ってきて夢中で読み進める。 これは、嬉しいけどちょっと恥ずかしくて慣れない。
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