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「――あっ、おはようございます! お待ちしておりました!」
絢爛と咲き誇る、百日紅の花の色は、躑躅にも似た中紅花。
鮮やかな花びらが美しいその樹木に近寄れば、撫子の襲の狩衣を身につけた少年が、はじけるように駆け寄ってきた。
「おはようございます。賀茂殿。お約束の刻限に遅れてしまったようです。申し訳ありません」
「いえ、違います。俺が勝手に、昨夜からここでお待ちしていただけなんです」
「え……昨夜、から?」
約束の刻限に遅れたつもりはなかった。むしろ、かなり早めに着いたつもりでいた。
が、相手が既に到着していたことで自分が遅れていたのだと思い謝罪したのだ。
すると、恥ずかしそうに目を伏せた相手から、思いがけない言葉が聞こえてきた。
『昨夜からここで待っていた』というのは、どういうことだろう。
聞き間違いだろうか。いくら何でも、昨夜からというのは……。
「だって……その……憧れの光成様との秘密の逢瀬だなんて、嬉しすぎて寝てなどいられませんっ」
伏せていた目を上げ、私を食い入るように見てきた少年の頬は、真っ赤に紅潮していた。
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