三章  呼ぶ声と_3

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 きっかけは藤崎のおばさんの発言だった。崇子さんと出掛けることをお願いされて断る理由を僕は持たなかったし、崇子さんが丸め込まれる様に承諾したそれをデートとは呼ばないはずだった。  目的地への移動中、電車に揺られながらぽつぽつと会話をする中で彼女は言った。 『草町くん。わたしと、「デート」してください』  まっすぐに目を見て言われた。  三つ年下の教え子の女の子は、その時確かに女性の顔をして僕を見ていた。 「僕は何もできなかったけれど、楽しそうにしてくれたんだ」  遊び慣れていない僕の手を引いて、二人で楽しもうとしてくれているのが伝わって来た。同じものを見て、話して、楽しそうな彼女の笑顔を可愛らしいと思ったけれど、それは見覚えのある切なさを秘めた笑みだった。揺れた瞳に、少し小野を思い出していた。 「いいなあ……草町と、デート」  そう呟いた小野の横顔に、崇子さんのそれが重なる。  理由の見つからない違和感と焦燥感にじわじわと首を絞められているように、ほんの少し息苦しい。気のせいだと思うのに、酸素を求めて首周りの見えない何かを除けようと知らず右手が伸びた。 「……行こっか」 「え?」  主語のない提案に顔を上げると、絡んだ視線の先で目が細められた。す、と右手が差し伸べられる様は自然な動きだったのに、何故かゆっくりに見える。 「してくれる?オレと、デート」     
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