3.恋って夢見がちなのです。

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 ワイワイ賑やかな店内。リーズナブルが売りのチェーン店の居酒屋。奥の方のテーブル席に見知った顔がふたつあって泉は軽く手を上げた。  4人がけのテーブルにはすでにお通しがきていて、2人ともすでに手をつけている。 「よお、久しぶりだな」  インテリ眼鏡の春紀。 「早く飲もうぜー」  童顔でゲーマーの周。 「泉のやつ居酒屋の前でボーッと突っ立てたんだぜ」  笑いながら健二は春紀の横に座り泉は周の横へと座った。  高校時代からたいていこうして定位置が自然と決まっていた。 「暑さでボケてるのか?」 「違う」  春紀にもからかわれ「そんなんじゃない」と泉は口を尖らせる。 「泉は恋愛ボケだよなー」  健二が煙草を取り出しながらニヤニヤと言ったところで周が「生頼むぞ」とメニューを手にして店員を呼ぶ。  元気のいい同い年くらいの店員がすぐにやってきて周が生ビール4杯に軟骨唐揚げ、枝豆と頼みそれに合わせて各々が定番メニューをいくつか注文した。 「恋愛ー? 泉が?」  物珍しげに春紀が見てくるから泉は周が持っていたメニューを奪い取り視線を落とす。 「周、新作ゲームの話でもしてろ」  片肘で隣の周をつつくと、いまだに高校生下手すれば中学生に間違われることもある周が健二と同じようなニヤついた笑みを浮かべる。 「お前初恋になるんじゃねーの?」 「そういやそうだな? 恋愛経験ゼロだったな」 「そうそう。ようやく泉が! だよ」  周に春紀に健二と続いて3人の視線が一斉に泉に集まる。  その視線を遮るようにメニューを顔の前に立たせる。 「うっせーな。男4人揃って恋バナってなんの会だよ!」 「いやいや、泉くんが二十歳の節目にして初恋を迎えたんだからそりゃぁお兄さんたちは気になるよなぁ」  健二が煙草に火をつけながらわざとらしく神妙な顔をしてみせる。  誰がお兄さんたちだよ、とぶつぶつ呟きながら実際泉よりは経験値がある3人だ。  こんな最初から弄られるのは回避したい泉はメニューを必死で眺めている振りをした。
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