セレンの帰還

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 クローディアは(きし)むような声でそう叫ぶ。  セレンの声は爆音を背景に、ひどく軽快だった。 「そーねーさっきは確かに私、力押しで負けた形になるわよね。私だけが転移するなんて、正直プライド傷ついたわー。ええもう、あんな思いしたくないわね!」 『だったら素直に諦めなさいな! どうせ繰り返すだけなのだから!』 「お生憎様(あいにくさま)! 諦めの悪さには自信があるのよ!」  ――何の話だろう?  腕で顔をかばい、砂煙と光で捉えどころのなくなる視界に必死に視線を潜り込ませながら、ラナーニャは眉をひそめる。セレンがいつ負けたというのか。自分は知らない――  そう、洞穴の中で、自分は一度気を失っている。  思い出した瞬間、鈍っていた何かが一気に目覚めた。全身から血の気が引いた。一度は激情に熱くなった指先まで、全てが凍り付くように。  ――()()()()()()()()()()()。  だからシグリィが、そして、  ()()()が、  姫様、と遠いどこかで呼ぶ声が聞こえる。  姫様、どうか強く生きて  ――無理だよリーディナ 「とは言え私もお嬢ちゃんのペットたちと戦ったおかげで、立派に学習したのよ!」  セレンは杖を両手で掲げた。整った紅唇が、しばらく控えていた詠唱を高らかに紡ぐ。 「――()ちよ幻、永久凍土に眠れ!」
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