夢にまで見た

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 ところが徹に顔色を読まれ、先回りをされてしまった。 「あ、言っておきますけど、聞き間違えじゃありませんよ?ちゃんと好きだって言いましたから。俺はアレックスが好きなんです」 「……」  アレックスはただ「馬鹿な」と呟いた。 「私は……許されないことをして……君は……傷付いて……」 「もうその辺はどうでもいいんですよ。何て言ったらいいのかなぁ」  徹は困ったような顔で頭を掻いた。 「誰だって静ちゃんがいきなりジャイアンになって帰ってきたら驚くでしょ?ちょっとどうしたらいいのかって悩んでもおかしくないと思うんですよ。それでびっくりしちまったって言うか」  「こう言うの、苦手なんだよなぁ」と困り果てている。だが、ふと表情を真剣なものに変えた。 「この10年、忘れようとしていました」  アレックスの目を真っ直ぐに見つめる。 「けれどもあなたがいつも心に居た。どんなに忘れようとしても、忘れられなかった――夢にまで見た」  黒い瞳の中に思いの光が瞬いている。少年時代と同じ、それは嘘の一切無い純粋な光だった。 「教えて欲しいんです。あれから10年であなたに何があって、何をやって、どんなことを考えていたのか。俺も俺の10年を話したい」  再び風が吹き頭上の木の枝と木の葉を揺らす。 「それじゃダメですか?……そうしてまた始めませんか?」  アレックスは数分の沈黙の後やっとの思いで言った。 「……話は長くなる」 「構いません」 「一生掛かるかもしれない」  徹は笑顔を浮かべた。 「いいですよ、付き合います」  アレックスはしばらく考え「やっぱり駄目だ」と溜息を吐いた。 「もう何の約束も無く不安になるのは嫌なんだ。君が結婚してくれるなら考えてもいい」  徹は「は!?」と奇妙な悲鳴を上げる。 「それはいくら何でも無理で、」  アレックスは半ば自棄になり、本の上に積み上げたタブレットを手に取り州法のページを開いて見せた。 「ニューヨークでもカリフォルニアでももう同性同士で結婚できる。ここじゃ2011年7月から施行だ。もう何組ものカップルが新婚生活を満喫している*」  徹は呆然と説明を聞いていたが、最後には半笑いになり空を仰いだ。 「……さすがアメリカだなぁ」  頭を掻きつつ「まあ、いいか」と呟く。 「じゃあいつ届けを出しに行きます?」
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