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微熱:出逢い
私が彼に出会ったのは大学二回生の夏休み。
難易度が高いテストを終わらせて、二ヶ月半近くある夏休みの幕が明けた日だった。
「きみ、名前はなんて言うの?」
大学のキャンパスを出て、数分歩いた場所にある喫茶店で紅茶を飲みながら、友達を待っていた時に隣の席に座った男性に声をかけられた。入店した時からそこに座っていた彼は真夏なのに、黒いロングコートを身に纏っていた。
「……誰、ですか…?」
眉間に皺を寄せ、警戒しながら返事をすれば切れ長の目を少し見開いて微笑んだ。
「僕は、椎名希一(Shiina Kiichi)」
ウェーブが緩くかかった黒髪がゆらり、と揺れる。まるで悪魔の様なオーラを醸し出していて、どこか危うさが見え隠れしているその表情に一瞬で、心を奪われた。
「……私は、早川瑠海(Hayakawa Rumi)…です」
「瑠海ちゃん…いい名前だね」
「……ありがとうございます」
彼、椎名さんは静かに立ち上がりそのまま喫茶店を出て行った。
すれ違いざまに仄かな煙草の匂いとコーヒーの苦い香りが鼻を掠めた。
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