A man with brown hair.:接触

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A man with brown hair.:接触

 耳の鼓膜まで響く音。キラキラと光るライト。その空間はとてもたくさんの人が密集していて見ているだけで面白い。ハメを外すと言っても、お酒を浴びるほど飲むとかそういうのじゃない。ただこのクラブという空間にいるだけのこと。  それだけで私は満足する。いつものようにボーっとクラブで弾ける人々を見つめていた所に急に誰かに話しかけられた。 「……なあ、アンタ」 「……っ」  いきなり耳元で話しかけられて身体がびくり、震えた。話しかけてきた男を見てみると私は思わず持っていたグラスをぐっと握る。 「いっつもここに座ってオレンジジュース飲んでるよね」 「……え?」  ナンパか何かと思ったけれど様子を見てみればどうやら違うらしい。私の隣に座った彼はスーツを身に着けていた。暗闇でよく顔がはっきりしないけれど、彼が私のことを前々から知っているような言い草だった。彼の手にはグラスも何もなく、ただ隣に座り、私の眺めていた方向をじっと見ている。 「あなた、誰ですか?」  わざわざ大声を出すのも面倒くさいので、彼が私にしたように耳元でそう問いかける。  すると彼はにこりと笑い、私の耳元に唇を近づけた。
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