きみのかたまり

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本棚の一番下の段。 昔の雑誌、辞書、家電の取扱説明書。普段読まないものたちがまとめて放り込まれている中に、薄いアルバムがある。 布張りの表紙は昔は濃い黒だったけど、日に焼け色あせて墨のような濃淡ができている。 角は擦り切れ、ページも波打っている、みすぼらしいアルバム。 開くと、一人の女の子の写真が詰まっている。 遠足でお弁当を食べているところ。 運動会で優勝した記念写真。 部活帰りにアイスをほうばる姿。 僕の家で、無防備に寝ているところ。 笑顔、驚き、拗ねた顔、照れた顔。 誰が見ても「かわいい」と言うであろう女の子の、他の人には見せない百面相を見るたびに、僕の顔もほころぶ。 この女の子だけを切り取ってしまったから写真の形はいびつだけど、そんなことはどうでもいい。 僕が閉じ込めたページをめくり、密かな優越感と一緒に、思う存分に思い出を味わう。 集中していた。部屋には西日が射している。 ふう、と息をつき、アルバムを閉じて、本棚に放り込む。 奥まで入らず押し込んだので、またページが曲がっていそうだ。 でも、どうでもいいものにかかずらわっていられない。 もっと大切なことがある。 このアルバムを見た後は絶対にする、一番の楽しみ。
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