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3章 10年後の12歳
「ティンディア南東部は、今年も天候に恵まれ、大麦も小麦も順調です。いかんせん人手不足なもので、十年前の収穫量にはまだ及びませんが――」
大広間の椅子で渋い顔をしている俺の目の前で、腰の曲がった爺さんが懸命に祝辞を述べていた。もう隠居させてもいいくらいの齢(よわい)だが、代わりがいないものは仕方ない。
国王即位記念日。
この日は国内各地域を治めている臣下達が王都に会する。こんな上っ面だけの形骸化した行事に、何の意味があるのか俺にはわからなかったが、王座のすぐ脇に立っているユエルは心なしか満足そうに見えた。
紙にしたためた文字を読み上げるだけだというのに、寿命を縮めているのではないかと思うほどたどたどしい様子に、こっちの方が気疲れしていた。
前日に中止を目論(もくろ)み、年寄りを王都に赴かせるのはいかがなものかと口を滑らせたら、では陛下が各地を回られるのですね、と返しやがったのでそれ以上は黙った。
それでなくとも、先日はエト区にできたという学校へ無理やり連れて行かれ、王都を出るのはもうこりごりだった。
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