1章 砂と太陽と

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 坊主頭に被せた白い布の下から、女のように端正な顔が覗いていることさえ、今は癪(しゃく)に障る。そのかわいげのない態度に俺がしかめっ面をして見せるが、彼は冷ややかな視線を送ってきただけだった。 「……もっと早く走れんのか。これでは到着する時分には王の干物(ひもの)ができあがるぞ」  あまりの暑さと退屈に耐えかね、だらしなくラクダに寄りかかり文句を垂れる。それを見たユエルは、わざと聞こえるように大きなため息をついた。 「お言葉ですが陛下、帯同する兵士と同数のラクダを用意するよう申し上げました際に、勿体無(もったいな)いから歩かせろとおっしゃったのは貴方(あなた)ですよ」 「ああ、そうだったかな」 「ええ、そうですとも。それに国王様より頂戴した土産物もございます。これ以上、後続の者たちに無理を強いるわけにはゆきません。今日は野宿を覚悟されてください」  まったくこの僧侶はよく舌が回る。ティンディアが豊かな国でないことはわかっているつもりだが、それにしても国王であるこの俺に野宿を強いるとは。
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