プロローグ

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神楽坂にある料亭の一室で、警視総監の福島と捜査一課長の岩瀬が盃を酌み交わしていた。 警視庁のトップである福島と、ノンキャリアからの叩き上げである岩瀬。接点の少なそうな二人だが、実際は警察官として苦楽を共にしてきた旧知の間柄だった。 「それで光介の様子はどうなんだ?」 福島が親しみを込めて『光介』と言ったのに対して、岩瀬の厳つい顔の目尻が下がった。 「ああ言うのを天衣無縫と言うんでしょうね。ここだけの話しですが、自分は光介をガキの頃から知ってるだけに、アイツがかわいくて仕方ないんですよ」 「それは俺も同じことだ。天衣無縫か……どちらかと言えば天真爛漫の方が的を射ていると思うが、光介の場合は悪く言えば天然の一言だな」 「その一言で片付けますか」 二人が顔を見合わせて大笑いしていると、女将が襖越しに連れが到着した事を告げた。 部屋に入って来たのは、二人の連れとしてはそぐわなそうな二十代半ば程の男だった。 「普段は睨みを効かしているお二人が、大爆笑とは珍しいですね。何を大笑いしているんですか?」 男の名前は佐久間光介。笑いの元となった人物である。
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