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うす暗い密室で見慣れた顔の男が入ってきた。この顔を見るのは何か月ぶりだろう。 初めて会った時から私の上司で、それは数年たった今でも何も変わらない。 違っているのは、一年前につけ始めた左手の薬指だけ。彼の左手は見たくないのに、どうしても目がいく。 「久しぶりだな」 彼はそう言う。 いつもしかめっつらの自分が本当の可愛げがないのは知っている。 少しだけ笑顔を意識してみたこともあったが、それは、結婚を知って、すぐに無駄な努力はしなくなった。 いつものように、彼が私に茶封筒に入った書類を手渡した。 「今回はこの人物になりきってほしい」 毎回このように手渡される書類には、これから自分が演じる人物像が詳しく決められている。
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