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「曽根くん。曽根くんの刺青ってどこまで入れてるの?」 その瞬間、曽根 幸太は入江 夏菜子に恋をしていた。恋とは突然やってきて、青春をかき乱すものである。夏菜子はキラキラとした瞳で幸太の切れ長の目を見つめながら、腕の刺青を指さした。席替え直後の教室はいい席になっただ、ならなかったで騒がしかった。一限目が始まる五分前、他の生徒達は、幸太の隣になった夏菜子が、彼に話しかけていることに驚愕した。 「……」 曽根 幸太といえば、強面、無愛想、刺青という高校性らしさのかけらもないことで生徒、ほか教師まで話題の男子高校生だった。しかしその中身はただのおとなしい普通の青年であった。極度の人見知りが助けて、幸太は声が出なかった。 「曽根くん」 また夏菜子の声がして、幸太はチラッと隣を見た。すると彼女はニコッと微笑んでから前に向き直った。幸太は破裂しそうに鼓動を打つ自分の心臓の音をただ聴いていた。 幸太の高校は、地元でも有名な不良高校で偏差値も低い。幸太は見た目こそいかつく、みんなが避けて歩くような男だったが頭だけはどうにも良くならなかった。二の腕、肩、胸、そして背中の全面には映画なんかでよくあるような花やら鳥なんかの刺青をびっしりと入れていた。それがまた、周りを幸太から遠ざけた。しかし、夏菜子はそんな見た目に全く臆さず隣の席になった幸太に遠慮なく話しかけた。そんな夏菜子の瞳や、声や、細い指が幸太には魅力的で堪らなかった。授業中、彼はなんども夏菜子を横目で観察していた。 「(すごくいい子そうだなぁ…入江さんだっけ…こんな可愛い子いたんだ)」 「曽根くん。」 「!?」 幸太は夏菜子が小声で声をかけてきて体がビクついた。 「あ、ごめん。シャー芯、くれないかな…。無くなっちゃって」 幸太は混乱して、シャー芯の入ったケースを丸ごと夏菜子に渡した。 「え、1本でいいよ!」 夏菜子が返すと、ケースののった手を幸太は手で押し返した。 「い、いいの……?」 幸太は深く何度も頷いた。夏菜子は困惑した様子だったが、すぐに微笑み返した。 「ありがとう。じゃあ休み時間にジュースおごるね!何がいい?」 「……(俺今女子と喋ってる。俺は声出してないけどお)」
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