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 ふふ、と唇をすぼめて笑う彼の顔をこちら側から見つめていると、彼が「ん?」と小首を傾げる。昨日、同じ仕草をベッドでも見せてくれた。ひとあたりの好い顔。きっと職場でも、友達の前でも、明るい時間帯にその表情が曇ることはそんなにないんだろうな。  君が、大切だと思う相手に対してどうやって距離を測ればいいのか、息苦しい思いをしていることにたいていの人は気づかないんだろうね。 「あのさ、君がもしも、俺のものになってくれるなら、ね」  ごとり、と彼がテーブルにマグを置く音がやけに大きく響いた。 「俺だけに見せる顔、見せてよ」  君が俺のものになるなら、いつも笑ってばかりいなくたっていいんだよ。それに、 「キライになったら離れればいいから、とかは言わないタイプだけど、好かれるための努力は惜しまないほうだから」  ふふ、とまた彼は笑って、 「そういうちょっと強引なところ、僕、嫌いじゃないです」 「強引? これって強引なの? 俺としてはわりと紳士的だと思うんだけど」 「紳士は『俺のものになるなら』とは言わないと思います」  そう言いながら、あはは、と彼が大きな口を開けて笑う顔を正面から初めて見た。こういう「初めて見た」とか「初めて知った」を積み重ねていくのが、恋愛の楽しいところだと思わない? と、そのうち彼に話してみよう。     
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