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 そのしなやかな身体を持つ男とは、数時間前に行きつけのバーで出会った。男を好きな男が、恋人になれそうな人を探しにやってくるバー。駅前の賑やかな通りから1本、2本、路地を入ったところにある煉瓦造りの喫茶店の2階で、ひっそりと灯りをともしている店。学生時代にこの街に住み始めて、卒業する少し前にそのバーを知って、でも店の扉を開けたのは社会人になってから。それからもう5年。最近は週末にしか顔を出さなくなったけど、通い始めた頃は週に2~3度は足を運び、くだらない話をして時間を過ごしていた。店で知り合って、付き合った人も過去にはいた。  最近見かけるようになった彼は、この春に社会人になったばかりだという。マスターが言うには「いいコだよ。ちゃんとお付き合いができる人を探している、ちゃんとしたコ」。 俺は大学で1年ダブっているから、彼は6歳年下だった。華奢な体を包むスーツの肩がしゃんとしていて、そんなところに20代前半の青さをフッと感じた。  カウンターで並んで座って話しているうちに、ヘリに砂糖をまぶしたバウムクーヘンが好きだとか、飛行機が怖いから海外旅行なんて行きたいとも思わないとか、そんなに読んではいないけどシェイクスピアは四大悲劇よりも「ヴェニスの商人」が好きだとか、これまで28年間生きてきてほぼ誰とも意気投合したことのないポイントがおもしろいほどにヒットして、酔った勢いも手伝って「これはもう運命だね」とかナントカ言って何度も「乾杯!」を繰り返した。     
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