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なぜなら理久が本気で嫌がっていたらすぐにわかるからで。そうじゃないなら多少は多めに見てもらう。それくらいの長い付き合いではあるし、そもそも実のところ、理久がおれに対して本気で嫌がる素振りなど見せないことは知っている。
けれども今日は、なんだかその理久の様子が普段とはちょっと、違うように感じていた。言動はいつもと変わらない。けれど何かが違う。でもそれが何なのかははっきりとわからない。
ただほんの少し、ピリッと張りつめている感じがある。いつもの安定した落ち着きががない気がする。
―ひょっとして何かに苛ついている?
そんな風に見えた。
なら、とおれは思う。
―これは……無理そうかも。
内心でこっそりとため息をもらす。
先ほどの理久との会話だが。実はあのとき、本心からあの二文字の言葉が理久の口から聞きたいと思っていた。理久に言ってもらいたかった。
理久からあの二文字の言葉がもし今聞けたなら。大げさかもしれないけれど。
たとえ明日の夜に世界の終わりがくることがわかっていて世界中の全ての人が絶望したとしても。
おれだけは間違いなく幸せな気分で明日の一日を過ごせる。そんな自信がある。
それくらい絶大な言葉だから。聞きたかったのだけれど。
実際にはうまく事は運ばない。
理久は言ってくれそうにない。無理矢理に言わそうとも思わないし。第一、意地でも理久が言うわけがない。
わかってはいたのだが。
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