【第一章:マレビト・スズと風の国 二】

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【二】  人は死ぬ前に、走馬灯のように自分の人生を思い出すと言うが、進一郎の脳裏に浮かんだのはこんな映像だった。 「本日、午後七時頃、鈴木進一郎さん(15)が東京都○×区の路上で、誤って工事現場のマンホールに転落し、死亡しました。  原因はバナナの……プッ」  ニュースキャスターのお姉さんが必死に笑いをこらえている。  …………。  嫌だ。  死ぬなら死ぬで誰にも迷惑をかけずにひっそりと死ぬのが理想だったのに。  それが下手をすれば百年後くらいに『本当にあった! 世界ビックリニュース』みたいな番組にまで紹介されそうな死に方をするなんて嫌だ。  本当にバナナの皮で滑って亡くなった方が万が一いらっしゃったらごめんなさい。  少なくともオレは知りません。オレが世界初だと思います。  いや、だからそんな世界初嫌だけど!! 「っていうか、死にたくない!!」 「では、折衷案(せっちゅうあん)ではどうでしょう?」  進一郎が叫ぶと、突然闇の中で女性の声が響いた。  それはまるで、魂の底から響いてくるような深みのある美しい声だった。  同時に進一郎の落下も止まっていた。
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