【第一章:マレビト・スズと風の国 一】

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 友梧と呼ばれた少年はそれを横目で確認すると、ニヤニヤ笑いながら「おう」と答えた。そして叫んだ。 「先に受かって俺を待っててくれ!」  進一郎は教室の扉越しに、それに答えて苦笑しながら軽く手を振った。  学習塾を出ると、外は予想以上に暗く、寒かった。  首をすくめ、バッグの中から濃いグリーンの毛糸のマフラーを取り出し、ダウンの上から顔の半分を覆い隠すようにそれを巻きつけた。  塾は小さな駅の前の一角にある。午後七時前の商店街の灯りはまだ明るく、人の通りもそれなりに多かった。  どのみち家には帰らなければならないが、早々に帰って母親や父親に下手に気を使われるのもうっとおしい。  少し暗くて遠回りになるが、人通りの少ない路地裏を選んで歩くことにした。  それは進一郎にとって気分が沈んだ時に選ぶ、秘密の通り道だ。  今は同級生や知り合いにも会いたくなかった。  明日から二月なんだなぁ、と進一郎は他人事のように思った。  一月最後の冷たい風が、少しだけ癖のある黒い前髪を乱して吹き抜ける。
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