人生査定1 一般人の場合

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「それではお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」 「はい」  部屋全体が目が痛くなるような純色の白に彩られたその場所で、黒いスーツを着た男性と利発そうな青年がスチール製の机を挟んで向き合っていた。装飾が何もないその部屋にあるのは、椅子と机とその上に置かれた冊子だけだった。 「これは幼少期の写真ですかね」  スーツを着た男性がはらりと捲ったその冊子には、様々な光景を撮した写真が貼られていた。それらに共通するのは、どの写真にも必ず小さな子供が映っていることだ。 「あぁ、懐かしいですね」  青年が目を細めてそっと写真を優しく撫でる。  腕や足を土で汚しながら種を植えている子供、麦わら帽子にタンクトップを着て虫あみを手にトンボを追いかける子供、壮年の男性と割烹着を着た妙齢の女性と共にちゃぶ台を囲む子供。 「ご実家は農家で?」 「はい、父方が代々農業を営んでおりまして」  写真に触れていた手を膝に戻した青年が、背筋を伸ばしてスーツ姿の男性と目を合わせる。 「あぁ、そんなにかしこまらなくても結構ですよ。普通に話してください。それで、どんな子供時代だったか覚えてますか?」 「ありがとうございます。……そうですね。貧しいながらも、ごく普通の一般的な家庭だったと思います」 「ふむ。貧しかったことを苦痛とは思いませんでしたか?」  男性の質問に青年は苦笑で応える。 「あの頃はどこの家庭もそれほど大差ありませんでしたよ。戦争に負けて国全体にどんよりとした雰囲気が漂っていたのを幼いながらも感じていましたし、家族がみんな生き残れただけでも幸いでした」 「前向きなんですねえ。それに孝行息子でもある」  ページを捲り、とんとんと男性が写真を指差していく。そこには成長した子供が農業を手伝ったり、鉛筆を片手にちゃぶ台で勉強している姿が写っていた。 「この頃は大変でしたね。親を少しでも楽させたくて偉くなろうと必死だったんですが、何分生活も苦しくて」 「でも、そのおかげで難関大学へ入学して卒業後には一流商社に勤めることが出来た」  一点一点確認するように、男性がページを捲りながら話を促す。
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