旅立つ日

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嫁さん孝行できなかったな。 いい夫じゃなかった。 「それより もう一杯くれ」 こいつに気のきいたことを言いたかったが、恥ずかしくって話せなかった。 出た言葉は、普段の会話とかわらないものだった。 また、軽々しく言葉だけで、美代子に対するこの思いを表現できなかった。 「まだ飲むの?  この間まで病院いた人が何杯目よ」 「入院中は、酒飲めんかったからなぁ。 その反動か飲みたくてな」 「だからといって......」 と美代子は呆れた顔をした。 1年前脳卒中で倒れて、この前まで入院していた。 もう病院は出たから、じゃんじゃん飲まなきゃな。 「あ、 電話」 家の電話が鳴って、美代子が電話をとった。 「もしもし。 あ、 ミッチ? うん まあ 元気よ。泣いてなんかいないわよ。 うんうん、お父さん? 横にいるわよ。 もー聞いてよミッチ。お父さん朝から、15分ごとにコップにお酒くれっていうのよ。 その上、お酒の種類まで、あのお酒が飲みたい、このお酒が飲みたいって。 お父さんが言うお酒がないから、朝から買いに行ったわよ。 あー忙しい。 あ、 明宏から連絡あって、 明日49日の準備全部したって、お坊さんも11時来てくれるって。 ミッチは早めに来てくれるんでしょ。手伝ってもらわないと困るからね。一真?連絡ないけど、朝10時前には来るようメール打っといて。 お母さんは、大丈夫よ。横にうるさい人もいるし。 うんじゃあ、 お願い」 娘、美智代からの電話のようだ。母親のことが心配で電話してきたようだ。    
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