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旅立つ日
「お前なにしてんだ」
「あ、 あなた。アルバムみてたの」
「ふーん」
妻、美代子が見ていたのは、結婚したばかりの頃の写真だった。
「あなた、この頃髪フサフサだったのに」
「そうだな。 この頃は髪もあってかっこよかったんだが」
昔は髪が多すぎて寝癖を直すのに一苦労だったが、今はかなり薄く額も広くなっている。
でもまだ禿げてはいない。
「今もかっこいいわよ。私は好きよ。」
美代子はサラッと言った。
こいつはこの年になってもこんなことをいう、
変な女だ。
酒ビン抱えて飲んでる俺の写真もあった。
「酒、弱くなったよな。この頃は日本酒1本全部開けれたのにな」
「あなたの給料、ほとんどお酒のツケを払うのに消えたわよね」
「お前がデパートで働いてくれて、たすかったよ」
「ほんと飲んべぇなんだから」
と美代子はくすくす笑った。
飲んべぇの俺に惚れてくれて30年。
いろいろこいつには苦労かけた。
切迫早産で入院したときも、何もしてやれなかったし、
ド田舎に転勤になって、周り何もないとこでの子供三人の子育て。
仕事人間の俺は子育ても全然手伝ってやれなかった。
美代子が子宮筋腫で1ヶ月入院したときも......
旅行らしい旅行も、数えるくらいしか連れて行ってやれなかったな。
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