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地下の、そう言う事に使うであろう部屋。
ぶっちゃけ拷問部屋だろう。
足は切り落とされた。目ももう見えない。
ここまでして私を囲う意図が分からない。
やたらと敏感になった聴覚が彼の足音をひろう。
錆び付いた鉄扉が開き、外と新しい薬品の匂い。そして彼の匂い。
「ーーよく、理解出来ないのだが私をこうする意味は何だ?」
男は点滴の交換と傷口の処置をするようだ。
「答えろよ」
カチャカチャと鳴っていた音が止み。
「ーー貴女を私だけのものにするために」
「それで、足を切り落として監禁?知っているだろう、私達ミュータントは戦うために生まれたって、戦う遺伝子が正しく根本にあるんだ!こんな関係続くわけない」
「…知ってます。作戦総本部管理課に願い出ました。貴女が戦えない戦いを俺が戦うと」
「そんな事…!」
「勝てば、勝ち続ければいいんです」
「俺も貴女も遺伝子に戦闘意識が刷り込まれた生き物。これが愛なのか執着なのか分かりませんが」
「貴女を誰の目にも触れさせたくない、貴女が何処までも遠くに行くのを許せない。貴女が誰かを見るのを許せない。」
「私が死んだら軍の人間が貴女を見つけ治療し再び戦場に送り出すでしょう。」
「すべて無かったかのように」
ーーこの男は愛なのか執着なのか分からないと言った。
この男は早晩死ぬだろう。私の代わりになれるものなんてないもの。
一週間、二週間。劣悪な環境で監禁されていた私はラボに戻り処置を受けた。三日たたずに試験運用され、一週間で戦列に復帰した。
血生臭い匂いで不意にあの男を思い出したが、彼の思いが愛だったか執着だったかはどうでもよくなっていた。
ただ、彼の存在が自分のなかで、真っ白い紙に落ちたインクのように、ささくれた指先のように小さな刺のように違和感を感じさせる存在になったと思った。
(了)
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