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祈りしは神様(あなた)へ。
それはまだ、雨降り止まぬ夏前のこと。
僕は久々に訪れた晴れ間に、意気揚々とお気に入りの土手に向かった。連日の雨に土手は湿っていたけれど、久々に嗅ぐ草の匂いに服が濡れるのにもかまわず、ごろんと寝転んだ。
「あーっ!」
大の字になって、手足をうんと伸ばす。どこもかしこも伸びていく感じがして、心がすっきりした。
今までの曇り空が嘘みたいに輝く太陽。吹き抜ける風の気持ちよさに、瞼の重みが増していく。このまま眠ってしまおうか、なんて考えていると、突然クスクスと誰かの笑い声が降ってきた。
閉じかけていた瞼を押し上げ声のほうへと視線をやれば、一人の少女が土手の上に立っていた。羽織る薄手の白いカーディガンと漆黒の長い髪がふわりふわりと揺れていて、まるで風の化身のようだな、とぼんやり思う。
「あ、ごめんなさい」
僕の視線に気がついた少女は慌てて笑うのをやめ、そして――、
「とても……気持ちよさそうだったから」
と、寂しそうに微笑んだ。
ドキリ。
心臓の原因不明の躍動に、無意識に手が胸へと向かう。
「一緒にどう?」
肘をついて上半身を起こし、ナンパ紛いにそう声をかけると、少女は大きな目をさらに大きく見開いた。
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