祈りしは神様(あなた)へ。

1/13
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

祈りしは神様(あなた)へ。

 それはまだ、雨降り止まぬ夏前のこと。  僕は久々に訪れた晴れ間に、意気揚々とお気に入りの土手に向かった。連日の雨に土手は湿っていたけれど、久々に嗅ぐ草の匂いに服が濡れるのにもかまわず、ごろんと寝転んだ。 「あーっ!」  大の字になって、手足をうんと伸ばす。どこもかしこも伸びていく感じがして、心がすっきりした。  今までの曇り空が嘘みたいに輝く太陽。吹き抜ける風の気持ちよさに、瞼の重みが増していく。このまま眠ってしまおうか、なんて考えていると、突然クスクスと誰かの笑い声が降ってきた。  閉じかけていた瞼を押し上げ声のほうへと視線をやれば、一人の少女が土手の上に立っていた。羽織る薄手の白いカーディガンと漆黒の長い髪がふわりふわりと揺れていて、まるで風の化身のようだな、とぼんやり思う。 「あ、ごめんなさい」  僕の視線に気がついた少女は慌てて笑うのをやめ、そして――、 「とても……気持ちよさそうだったから」 と、寂しそうに微笑んだ。  ドキリ。  心臓の原因不明の躍動に、無意識に手が胸へと向かう。 「一緒にどう?」  肘をついて上半身を起こし、ナンパ紛いにそう声をかけると、少女は大きな目をさらに大きく見開いた。     
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!