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「今日も暇ね」  昨日と同じ場所で同じような顔で今日も吉祥天様は憂鬱そうに座っている。 「だから仕事してくださいって。昨日私1人で掃除したんですから」 「いつもありがと」 「手でハート作ったって駄目ですよ。そもそもお母さんの手術は上手く行ったんですか?」 「もちのろんよ」  使う言葉が古いから人気がないんじゃないだろうか? と思ってはみるが言葉には出せない。 「手術は上手く行ったし、何ならこれから先ずっと病気にならないぐらいの幸運をさずけてきたわ」 「そうですか」  少なくともここに来てくれた子供が不幸にならなくて済んで良かった。ふと、境内の入り口の人の気配を感じたので振り返ると、お母さんの手術の成功を願いに来た子供がやってきていた。  境内にたたずむ私と吉祥天様の横を通り過ぎて行く。人間たちには私達の姿は見えない。  男の子は神社の前に行ってたたずむと柏手を打って頭を下げる。 「お母さんの手術が無事に成功しました。ありがとうございました!」  満面の笑顔で報告してくれる。この笑顔があるからこの仕事をやっている甲斐があると言うものだ。  吉祥天様もにこやかに子供を眺めている。そっと男の子の横に並ぶ。そして、私にスマホを渡す。 「ちょっと写真撮ってくれる?」  子供の笑顔を写真に残しておきたいというのだろう。その気持ちは分かるのでスマホを構えてシャッターを切る。  男の子が帰るのを2人で見送った後、スマホを吉祥天様に渡す。男の子と2人笑顔でならんで良い写真だと思った。 「やった。インスタ映えしそう!」 「吉祥天様!」  私が叫ぶと舌を出して空を飛んで行ってしまう。悪い人ではないのだ。  たぶん。
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