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【1】
桜が咲き誇るこの季節。
私も中学三年生、受験生になった。
これから毎日勉強尽くしなんだろうな、と思うとやっぱり気が滅入る。
今日もしっかり6時間の授業を終えて帰ろうとしていたら担任に呼び止められた。
「速水は帰宅部だったよな?」
「はい、そうですけど」
「それじゃあちょっと頼みたいことがあるんだ」
そのまま職員室に連れていかれて手渡されたのはプリントの束。それと。
「南沢病院…?」
南沢病院までの行き方が書かれた地図だった。地図を見るとバスを使えば学校からほど近い。
でもなんでこのプリントの束と病院の地図なのか。
「うちのクラス、席1つ空いているだろ?あそこに座るやつがここにいる」
先生は赤ペンでトントンと病院名を叩いて見せた。
確かに席が1つ余っていることは知っていた。真ん中の列、一番後ろ。
あそこに座る子がここ、病院にいる。つまりこのプリントは入院して登校できない子への課題。
中学三年生、入院しても勉強と縁は切れないようだ。
「名前は安西遥香、病室とかは受付に聞いてくれ。そんじゃ頼んだぞ」
頼まれたからにはしっかり渡さないといけない。
安西さんか、どんな子かな?
バスに揺られながらまだ顔も何も分からないクラスメイトのことを想像していた。
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