思い出屋さん。

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一年前の火事で、私の家の物は全て焼けた。 身につけていた服と、いつも枕元に置いていた写真以外は。 ボロいアパートだったから、一瞬で火は回って、危機一髪で外に逃げ出したんだ。 「はぁ、」 その日から、私の中で何かが抜け落ちた。何かを忘れてる。 枕元に置いていた写真も、ほとんど色褪せてて。何冊かあったアルバムも焼けた。スマホのデータなんか飛んじゃったし。 つまりは、何を忘れたのかもわからない。 「はぁぁ……」 「優、元気だしなよ。折角の同窓会だよ。」 「うん。ありがと、」 中学の時の同窓会にくれば何か思い出すかも。と思って来たけれど、ただ単に、大学生の集まりで。 「優、優だろ?」 「え、っと…、あぁ。佐藤くんか。」 「うん。今優って何やってんの?」 「大学生。法学部なんだ。佐藤くんは?」 「俺は思い出屋さん。」 「思い、出?」 「そ。思い出を蘇らせてあげるんだ。」 佐藤くんは何を言ってるんだ。 思い出を売れるわけがないし、蘇らせるなんて、アルバムかなんかがない限り無理だ。 「優のアパート、一年前に燃えたんだって?」 「うん。放火魔って話。お陰でアルバムもお気に入りのスマホカバーも燃えちゃったよ。」
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