三章:時渡りの魔法使い、星喰みの魔王

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 ◇   ◇   ◇ 行人が睨んだ通り、すんなり凱旋とはならなかった。警告無視のみならず、戦闘行為にまで及んだ恵流達には重大な嫌疑が掛けられている。不落の防壁(レテルニテ)に戻った恵流達は、行人がいたおかげで門前払いこそされなかったものの、施設内の懲罰房にて厳重に拘禁されてしまった。菖蒲が魔物化していた事によって、事態はよりややこしい方向になって。 部屋とは名ばかりの無骨な檻。中央区画の地下に広がる一画。その最奥の合成金属に覆われた一際いかめしい無機質な空間に、手足を拘束された上で”四人”揃って放り込まれている。 「おっ――わ、私達どうなるんだろう」 「君はしこたま魔物扱いされてたから、最悪の場合は処分もあるかもね」 「ふ……その魔物を引き入れたのはのえるだから、死ぬ時は一緒だよ」 「いざとなったら暴れ回るから大丈夫」 「ここは飾真氏を信じて無用な争いは避けるべき。せっかく『魔王を倒した』のに、ここでレテルニテを敵に回したら、平野氏達が新たな魔王として認識されてしまうかも知れない」 最も堅牢な一室に閉じ込められたのは、恵流と菖蒲と未来と意識のない七色の四名。行人は立場の助けもあって、四人を捕えた者として難を逃れている。 「まおうを、たおした?」 か細い声は部屋の角から。黒く長い髪を床に寝かせた小さな少女が、膝を抱えた姿勢で未来を見つめていた。菖蒲は彼女を良く知っている。 「あの子は、魔界の飾真アリス……」 「こんな所に隔離――もとい保護されてたんだね」 恵流達が不落の防壁(レテルニテ)を脱走して間もない頃、菖蒲はトロールの異常個体と接敵する前に道中で助けた彼女を外壁の付近まで搬送していた。 「どういう、ことです、か? おーとがまけるとしても、まださきだったはず……こたえてください!」 身体が言う事を聞かないのだろう。魔界のアリスは精一杯の声量で問いを投げながら下半身を引き摺るようにして三人の元に詰め寄る。
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