空腹よりも最高のスパイス

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 不味い、この弁当のなんと不味いことか。  まず卵焼きだ。見た目はオムレツ風で、口に含むとふんわりとほぐれ、半熟のとろとろした中身が溢れだす。噛む必要がないほどに柔らかい。舌だけで崩せるくらいだ。しかし、しょっぱい致命的なほどに塩辛い。食べた直後に思わず水を飲んだ。  次に肉じゃがだ。ほどよく崩れたじゃがいもに、芯まで味の染み込んだニンジン、肉は豚肉ながらも脂身が取られていて非常に食べやすい。しかし、甘い、こちらは角砂糖でも入ってるんじゃないかと思うぐらい甘い。これも食べた直後に水を飲んだ。  付け合わせの野菜はまあいい。ほうれん草のおひたしなのに、何故かすっぱいのもぎりぎり許容範囲だ。ほうれん草のザワークラウトだと思えば食えなくはない。  だが、メインの米。こいつが駄目だ。今までの丁寧ぶりはどこに消えたのかと思うほど適当だ。まず水分が多い。口に含んだ瞬間のぬちゃっとした感覚が非常に不愉快だ。まるで、固形のボンドでも食べた気分だ。もちろんボンドなど食べたことはないが。そして、噛んだ瞬間に感じる芯の部分、なんだこれは米のアルデンテとでも言いたいのか。固めが許されるのは麺類だけに決まっているだろうに。  そんなクソ不味い弁当を俺は一心不乱に食べ続ける。幼稚園児がおままごとで作った砂の団子を食べる気持ちを味わいながら、なんとか全てを胃に収めた。  俺は三段式の弁当をちゃんと包んだ後、これを作った相手を睨みつけながら、こう言った。 「美味かった。明日も頼む」 「良かった。自信作だったの」  そう言って最愛の彼女はにっこりと微笑んだ。  彼女との関係と胃袋と、先に壊れるのはどちらだろうか。  ……答えは決まっている。俺の胃袋だ。
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