1、花畑での逢瀬

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「ヴィルヘルミーア」  メイドの僅かな休憩時間。カルレニウス邸の花畑の隅で佇んでいたヴィルヘルミーアは、その名を呼ばれて振り返った。 「ヨーセフ様」  こちらに歩いてくる一人の男性に微笑むと、彼も同じように微笑み返す。 「ヴィルヘルミーア、今日も綺麗だね」  灰色の瞳に銀の髪を持つ華やかな雰囲気のその人は、囁くように甘い言葉を口にした。ヴィルヘルミーアは僅かに俯く。 「ヨーセフ様、お仕事はもうよろしいのですか?」 「ああ、僕の愛しいヴィア、仕事などどうにでもなるさ」 「まあ、でもお父様のお取引相手の方だったのでしょう」 「ヴィア、君にこうして会うことの方が僕にとっては大切なことなんだ。……分かってくれるだろう?」  そう言ってヴィルヘルミーアの手を取ったのは、紛れもなくこの邸(やしき)の主――ヨーセフ・カルレニウスだ。 「ヨーセフ様……」  ヴィルヘルミーアは困ったような顔をしながらも、その手を握り返す。 「こんなところをマーシャ様に見られたら……わたくしは解雇されてしまうのでしょうね」 「大丈夫だよヴィア。いくら彼女がメイド頭といっても、この僕が君を解雇などさせるものか。君とここで会うことは僕の毎日の楽しみなんだから」  額を寄せ合うその様子は、誰がどう見ても仲睦まじい恋人同士だ。  ヨーセフは優しく、ヴィルヘルミーアの結い上げた髪に触れた。 「ヨーセフ様……。わたくしも、そうですわ。ヨーセフ様にお会いするために、ここにいるのです」  ヴィルヘルミーアはヨーセフの灰色の瞳を見つめた。広大な邸も、花畑も、太陽の放つ光も、その場の何もかもが、彼に相応しく華やかだった。 「きっと、運命だったんだ。美しいこの花畑で、偶然君と会えたことは」 「……いいえ、きっとそれも必然だったのですわ」  ヴィルヘルミーアは微笑んだ。それを見たヨーセフは、ゆっくりと目を細める。 「好きだよ、ヴィア」
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