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1、花畑での逢瀬
「ねえ、やっぱりヴィアとヨーセフ様って、絶対恋人関係よね」
「えっ? そうなんですか?」
「あら、気付いてなかったの? あたしは前から思ってたわ。だって見てよ、ほら」
よく晴れたある日のこと。国内でも有数の広さを誇るカルレニウス邸の廊下では、二人のメイドによってこんな会話がなされていた。
彼女たちの視線の先には、黒髪をきっちりと編み込んだメイド姿の少女と、この邸(やしき)の主人であるヨーセフ・カルレニウスがいる。
「この時間、ああやって毎日あそこで会ってんのよ。周りから見えにくいところだから、みんなあんまり気付いてないみたいだけど。でもほんと、よくやるわよね」
彼らは花畑の隅で何かを話している様子だ。かなり離れたこの廊下では会話の内容までは聞き取れないが、それでも、二人の間の親密な雰囲気は十分に伝わった。
「えー、ヴィアって普段あんまりおしゃべりな感じじゃないのに、意外ですねー」
「そうよねえ」
花畑のところにいる少女の名前は、ヴィルヘルミーア。この邸の人間からはヴィアと呼ばれている。
「でも彼女、美人ですもんね」
すっと通った鼻筋に、伏し目がちの大きな瞳。誰が見てもヴィルヘルミーアは美人の域に入るだろう。
「いいなー、もしうまくいけば玉の輿じゃないですか」
何も考えずにそう言ったメイドの一人は、次の瞬間、呆れたようなもう一人の視線に口を閉じた。
「馬鹿ねえ、あんた。メイドがこんな大貴族と結婚できるわけないでしょうが。せいぜいが愛人よ」
「あー、そっか。まあ、メイドは所詮メイドですからね」
私たちには玉の輿なんて夢のまた夢ですよねぇ、とため息を吐いて、彼女たちは仕事を再開した。
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